writings:Seh編集長
洋の東西を問わず、家作りは人生の大きな仕事の一つである
ベルギーにはこんな話がある。
ベルギー人は石を抱いて生まれ、成長に合わせて一つ一つ石を集めてやがてその石で家を作る。ベルギー人の堅実さを象徴するような逸話だが、石造りの家がほとんどのベルギーらしい話だ。
実際に石を拾い集める訳では無いが、子供の頃から家についての様々な知識を蓄えていき、やがて家を建てるときには、その知識を生かして自分に合った良い家を作るというのが彼らの一般的な考え方だ。週末に郊外の展示場を多くの人が巡り歩き、住宅関連の雑誌が数多く出版されていることからも伺われる。
イギリスでは、9歳の女の子が自分の部屋を気に入ったようにコーディネイトしている。まさに、生まれたときから将来の家作りを学んでいる。欧米の女性は、主婦になったとき洋服のセンスよりインテリアのセンスの良し悪しが評価されるので、女子の家庭教育では家について学ぶことがとっても重要なのだ。
家作りは言わば人生そのものを作ることに他ならない。
それに比べたら、日本はどうであろうか?
どこの親も子供部屋を作るが、ほとんど子供の希望は聞かないだろう。
親自体も、将来の家作りの為に貯金を始めて、イベントや記念品目当てに住宅展示場を覗いてみるが、建てる段になったら勉強すれば良いと説明を受け流すだけ。いよいよ具体的に計画をスタートさせると、雑誌を買い漁り一生懸命ネットで調べて知識だけはとりあえず持つが、氾濫する情報で結局は良くわからず、夢だけが広がっていく。
いざ建てる段になっても、住宅会社の営業マンの説明では、実際のところ良く解らず、予算の都合で夢は萎むばかりで、最後は営業マンの感じが良いからと契約する。営業マンは、売る事が仕事なので感じが良いのは当然で、建築中は、ほとんどがお任せ状態で、集金以外は姿を見せない。
こんな建て方だからトラブルも少なくない。クレームを付けてものらりくらりとかわされ、結局は泣き寝入りする事になる。建て主の理解不足と住宅会社の説明不足が原因なのに、当の住宅会社の人間までもが住宅産業はクレーム産業などと言い出す始末。
これが日本の現状である。
棟梁は住まいづくりのスペシャリスト!
残念だが、日本には欧米のように子供の頃から自然に家作りを学ぶという風習が無いが、どこの町や村にも信頼の置ける家作りの先生として棟梁が存在していた。彼らは住まいの専門家であると同時に、人々から尊敬される町の名士でもあった。
町に暮らす人々の個々の家族構成や好みは日ごろの付き合いからよく知っていたので、家を建てたいと相談に行けば、細かな部分まで的確な提案をしてくれる。材料や技術に関しても豊富な知識を持っているので、材木を一緒に買いに行き、一本一本細かくチェックし、腕の良い職人を手配して陣頭指揮を取る。時としてそれが施主の希望であっても、プロとしてふさわしい物しか取り入れない頑固さも持っていた。
こうして、建て主と一緒になって、施主の家族やライフスタイルに合わせた質の良い家を作る。それゆえ町の名士として信頼を集めていたのだ。
残念ながら、戦後、日本から棟梁は消えていった。
棟梁に代わって家作りを担ったのは家を商品とする住宅会社であった
戦後、多くの住宅を素早く建てる必要から住宅を工場で作る会社が生まれた。
彼らは、短い期間で完成する住宅を開発し、商品となった家を売り歩いた、それはまるで車を売るようであった。様々な装備を施した家は年毎に魅力的な商品となり、会社が大きくなる事で日本の経済は発展し、私達の暮らしは便利で快適になった。
しかし、20年も経てば建替える事を前提として建てられた家は、少し古くなると価値がなくなり、もはや資産ではなく自動車と同じような耐久消費財となった。これらの家が建ち並ぶ統一感の無い町並み、いずれ建て替えるからと手入れされない家々、・・・
小さな土地にぎりぎりに建てられた家には、最新の家電や家具等の物はあふれているが、なぜか生活に豊かさを感じない。われわれは、先進国の中でもっとも陳腐な住宅に住むことになってしまった。
家作りには、多くの知識が必要である。土地をどう選ぶのか、そしてどんな家を建てるのか、間取りやデザインも重要だが、ローンの金利は銀行か生保かどちらが有利か、保険はどんな掛け方が良いのか、補償はどうなっているのか、そして毎月のランニングコストは・・・
家族が健康で快適に暮らすためには、もっと大事な事はないのか?本を読んでも、ネットで調べても、あまり確信にふれた情報は少ない。どれも良いことばかりしか書いていない。あまりにも情報が多すぎて、どれが本当か、適切かがわからない。本当に自分に合った家作りを学ぶことは難しい。
だから、欧米では自分のライフスタイルに合わせた家作りを、時間をかけて学んで行くのである。
では、これから家作りを考えている人はどうしたら良いのだろうか?
“家作り勉強会”という家の建て方がある。
この勉強会は、セミナーのような大人数を相手に一方的に話すのではなく、1組の家族単位で行われる。必ず夫婦で参加することが条件で、4日間で約10時間かけて、家作りに必要なあらゆる知識・ノウハウを徹底的に勉強して行くのだ。もちろん、建築知識のない素人向けに、わかりやすく教えてくれる。
なんと、この勉強はすべて無料である。この勉強会の主宰者、「上野氏」は30年も住宅会社を経営してきた言わば家作りのベテラン。
しかし、今までの家を売るという仕事の方法に、常に何かが違うと感じていたことから、もっと違う家作りの方法があるのではと考え、家作りの考え方や業界の裏表を徹底的に勉強してもらい、その上で自分達の求める家を作り出してもらおうと勉強会を企画した。
勉強会で学んだことを基に、展示場を見たり住宅会社や不動産屋と話を進めれば、彼らに不都合な、でも最も大事な所をごまかされないので、失敗しない家作りができる。それが、建て主にとって一番良い家作りの方法だと上野氏は語る。
それでも不安な場合は、上野氏にかつての棟梁の役をお願いしてもらう事もできる。もちろんその場合は、無料とはいかないが、すべての費用がガラス張りで見えるので、納得のいく家作りができる。住宅会社のように、営業がせっせと販売し、現場監督は掛け持ちで仕事をするのではなく、建て主と一緒になって、家作りをしていく。まさに、棟梁なのである。
この方法で家を作った人達は、誰も満足そうで、完成後も上野氏との付き合いがつづいているという。こうして家を作った人達の子供は、おのずから家作りを学んでいくであろう。
なにより、親自身が家作りのノウハウを知っているのだから。
上野氏との対談
聞き手:Seh編集長
編集長
上野氏は30年近く住宅会社を経営されてきたわけですけど、今までとまったく違う家つくりの「CMシステム」を何がきっかけで始めたのですか?
上野氏
どんなに一生懸命考えて建てた家でも、20年も経つと価値がほぼ無くなってしまのが日本の家、それは作る側からすると虚しいですよね。
欧米ではいつまでも資産価値が落ちないし、むしろ古い家の方に人気があるくらいです。
そんな家を作りたくて、北米式の住宅を建てていたのですけど、お客様は輸入車のオプションを選ぶような感覚で家を建てて行くんですね。家作りは人生まで左右する大きな買い物なのですからもっと大切な所に目を向けてほしいんですけど、どうしてもその思いが伝わらなかったんですね。
私も社員を養わなければならない立場でしたから、お客様の思うような家を建てるしか無かったんですね。ずっと、何か違うなと感じていました。
編集長
先進国の中で、家が耐久消費財になっているのは日本ぐらいですよね。だから日本の住宅事情はお粗末だと言われる。戦後はアメリカ式に消費しないと経済発展は無い、だから20年程度で建替えするのが良い、と考えられていた。そのアメリカでさえ70年以上建替えない。
上野氏
そこで思い切って会社を閉めて、一人になっていろいろ勉強しました。会社を経営していた時は、クレーム処理や資金繰りで勉強する時間はあまりありませんでしたね。
どんな家を、どんな風に作るのが良いのか?それをどうやってお客さんに伝えるのか?今までとまったく違う考え方、方法で家作りが出来ないものかと、いろいろな本を読み漁ってひたすら考えました。
そこで考え出したのが「CMシステムの家づくり」です。家づくりに本当に何が必要か、家作りの裏表をお客様に勉強してもらい、一緒に家を作れば良い、請け負うのではなく、共同作業にすれば良いと思ったわけです。
編集長
私も住宅業界に居ましたから、内情は良く判ります。よく、住宅業界はクレーム産業だと言うけれど、作り手の都合の良いように売り込もうとしたり、曖昧な説明をするから不信感を抱かれて些細な事でクレームになるんですね。
上野氏
正直、最初の頃はここまで教えて良いのかなという戸惑いもありましたが、すべてをオープンにする事で、皆さん信頼してくれる。
私は、家を売ったり請け負ったりはしません。勉強に来られた方の家作りのお手伝いをするだけです。家作りに失敗したら、人生にも影響します。だから、一生懸命勉強して、最良の家を作ってほしいのです。これが、私の使命だと思っています。
勉強の成果を生かして、失敗しない家作りをしてほしいと思っています。どうしても、一緒に家作りをして欲しいと言う人には、土地選びから完成までお手伝いしています。ですから、1年で10棟~12棟ぐらいしか出来ないんですよ。それでも休む暇はありませんね。
でも、皆さん喜んでいただいて、家が完成したら会えなくなるから寂しいって言って下さるんです。だから、年に何回か同窓会をやるんですよ。
編集長
言わば、生徒たちが先生を慕うような感じですね。それは取材をさせて頂いて良く理解できました。ところで、上野さんが建てて欲しいと言うか、皆さんに勧める住宅のスタイルがありますか?
上野氏
私が勉強会で皆さんに薦めるというか、こんな家でなければ良い家とは言えませんよという住宅があります。それはエネルギーを自給自足して、快適に健康に暮らせて、資産になる家です。
エネルギーを自給自足すると言えば、太陽光発電だとか蓄電池とかが注目されていますけど、ただ、それらを付ければ良いという訳ではありません。私達の周りには、太陽の光や熱、風、水、そして地中熱など、多くのエネルギーがあります。それらのエネルギーを取り入れて、効率よく使う事で原発や化石燃料に依存しない生活が出来ます。
日本は地震が多く、このところの異常気象で大きな災害が起きています。スイッチを入れれば電気がつき、蛇口をひねればいつでも水が出るのが当然と思っていると、それが無くなったときにパニックになります。
今度の震災で皆さんは実感したと思います。災害で無くてもこの様な状態にならないとは言えません。それに、限りある資源を大切にする事や環境を汚さないことも大切です。
身近にある自然エネルギーを活用し、無駄の無い使い方をして快適に暮らせる家。その為に、構造躯体の断熱と気密・調湿、断熱性能の高いサッシ、計画換気も熱交換率90%以上で湿度の交換もする。又、アレルゲンやウイルス・花粉などもシャットアウトできる物を使う等、家の省エネ性能を上げる事が非常に大切だという事を徹底して学んでいただく、これが今皆さんと行っている勉強会の一部です。
編集長
家を建てたいと思う人達に、エネルギーや省エネ住宅の事をしっかり勉強してもらう。その為には、家作りのプロといえども自身でも勉強していかなければならない。それで、セルフエナジーハウス研究会を作られたのですね。
上野氏
そうです。このエネルギーを自給自足するという事は、口で言うほど簡単ではありません。建築以外の様々な勉強をしなければなりません。まだ未知の領域もありますから、建築学の先生やエネルギーの専門家や機器類の開発者達と情報交換や研究をしていかなくてはなりません。その為に、研究会を作りました。
今までエネルギー使用量を抑える、いわゆる省エネ住宅は、北海道のような北国を中心に研究されてきました。しかし、日本の多くは鹿児島のような蒸し暑い地域です。この研究会は、そんな蒸し暑い地域を中心とした、省エネと自然エネルギー利用を考えた家を研究していますし、今後も私達の考え方に賛同する方々と共に研究を続けていきたいと思っています。
編集長
我々が安心して、快適に健康に暮らせるにはどのような家が良いかを、CMシステムの家づくりやセルフエナジーハウス研究会で、作り出していく。そんな、上野さんの家に対する思いは、伝わってきます。私も微力ながらお手伝いしたいと思います。